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ひぐらしのなく頃に 神落し編

2006/09/17_150031




目次


大石1

いや、まったく嬉しいもんだね。あのひよっこがこんなに成長しているとはなぁ。もう、五年か。いやいや、長いもんだね。虎を思わせるしなやかな身のこなし。落ち着きながらも隙のない目配り。いつのまにか貫禄十分じゃないですか、全く。一体全体どれだけの修羅場を潜ってきたんだか。

と、と、と。会議室の方から赤坂さんの怒鳴り声が聞こえる……あらあら、この分だとあまりいい連絡はなかったようだねえ……

「無事連絡つきましたかぁ?」

「ええ……。どうやら仕事が無くなってしまったようです。……今日から二週間の休暇になりました」

あらら。自制してるけど、怒りと落胆の色が少し滲み出ている。まだまだ若い……でも、まあ悪い事じゃない。

「ありゃりゃ。予定が狂いましたね」

「全くです。」と、いうと息を吐き出す。蒸気を吐き出して体内の圧を落としていく感じ。「少し拍子抜けしました」

「運がいいのか、悪いのか。ちょうどいい時期に休みになったようですねぇ。今週末は雛見沢でお祭りですよ」

「──綿流し、でしたっけ?」

「そうですよ。ここ数年で随分大きなお祭りになりましてね。ここからも結構遊びにいく人が多いんですよ」

赤坂さんを促して署を出る。

「そうですか──前に来たときは、ずいぶんと小じんまりとした宴会でしたが……」

「いやいやいや、もうここいらで一番大きな祭になりましたよ、綿流し。──ただ、私たちは楽しんでいる暇がないですけどね」

赤坂さんの目に光が宿る。……いけませんねぇ。顔色を読まれるようじゃ、駆け引きの方はまだまだのようで。麻雀の時のはったりが効けばいいのに。……でも、何で? お祭りの時に警察が警備で駆り出されるのは当たり前のこと。なんで反応するのでしょう?

「もしかして興宮警察総出で警備ですか? 随分と大規模ですね」赤坂さんの瞳から、まだギラギラした感じが抜けきらない。

「大きな祭ですからねぇ。特別シフト組んで準備してますよぅ」当たり障りのない受け答えをして、赤坂さんの出方を見る。さて……気のせいかな?

「……やっぱり事件とか……いや、小細工は止めましょう。もうお見透しの様ですし」

「駄目ですよ。顔色に出るようじゃ、まだまだ場数が足りないですよぅ。表情を出さないようになって半人前。表情を作れるようにならないと」

なっはっはっはっは。

「手厳しい……心掛けてはいるのですが、今日は相手が悪かったようです」

「誉めたって何にも出ませんよ! まあ、毎日の精進は大切ですからね。二人目の自分を飼い馴らせるようになったら一人前です。……で、何の話です?」

「……綿流しで起きている殺人事件と、五年目の被害者についてです」

トンでもないのが出てきた。ついさっき偉そうなことを言いながら、今の言葉を聞いて、もう全然余裕が無くなっている。笑い顔を崩さないのが精一杯。

んっふっふっふっふ!

自然と声が小さくなる。偉そうなことを言った手前、貫禄を示そうと少し茶化したようなトボけた口振りになる。

「殺人事件とは物騒ですね。……どんな話でしょう?」

赤坂さんは、私のふざけた口調にも腹を立てずに付き合ってくれる。本当に落ち着きが増したようですね。

「小細工はやめますので、単刀直入です。まずは口を挟まずに聞いて下さい」

その言葉に頷く。

「この話を聞いたのは、前に雛見沢に来たときですから、5年前ですか──口を挟むのは無しですよ──。今までは思い出せませんでしたが、今ならはっきりと思い出せます。まずはこの話をしましょう」

つい口を出しそうになって、赤坂さんに遮られる。

「私はその時に聞きました。1年後……つまり4年前ですね。いっしょに麻雀を打っていたダム現場の監督が殺されます。バラバラ殺人ということです────2年後は、サトコという子の両親が死にます。転落死でしょうか? 事故というべきかもしれない……と聞いています────3年後は、古手梨花の両親が死にます────4年後……つまり去年は、サトコという子の叔母が殺されます。頭を割られたらしいですね」

……よく調べている……。去年の殺人事件は秘匿捜査指定なので、そう簡単にはわからないはずですが……雛見沢の住民ならこれぐらいのことは知っているから、赤坂さんが雛見沢の住民から情報を入手した……いやいや、その考えを頭から振るい落とす。先入観で誤った判断をすると、後々まで尾を引く。

赤坂さんは、さらに声を小さくして私に囁く。

「そして、今年。いや、今月末までに……古手梨花が殺されます」

もう、ダメ。ぎこちない作り笑いが精一杯。

「これを話してくれたのは、古手梨花。梨花ちゃんは、はっきりと『死にたくない』と言いました」

「────そういえば、奥さんの危機を報せてくれたのも、古手さん、でしたね」

「そうです。梨花ちゃんの助言が無ければ、タイルを踏み外して階段を落ちていたのは私の家内でした……たぶんそうなったら私はとても後悔していたでしょう。梨花ちゃんにはとても重い借りがあります」

その目を見る。不意の睨みにも動揺しない、真っ直ぐな瞳。

「ふぅむ。人がいないとはいえ、あまり道端で話すような話ではありませんね」

私は立ち止まる。

「どうしました?……飲み屋はまだ先のようですが」

ここはおもちゃ屋の前。赤坂さんが訝しるのも無理はない。

「運が良いのか悪いのか……飲んでいる場合じゃなさそうです」

私にとっては、とてもツイている。兵糧切れ直前の負け戦にあらわれた一筋の光明。……もう、あまり打てる手はないんですよね。

「いや、いや。とても運が良かった。お陰で貴重な時間を無駄にせずに済みました。すぐに綿流しですしね────もうそろそろかな?」

ちょうどその時、足元から幼ない声がした。今の言葉を聞き付けたようだ。

「いいえ、遅いのです。大石。ずいぶんと待ちましたのですよ」

と、そこで言葉が止まる。どうやら、気付いたようだ。

「まあ、すみませんね。これでも急いで来たのですけどね。案内するのに時間がかかりまして」

んっふっふっふっふ! 赤坂さんが目を真ん丸にして驚いている──そして、赤坂さんが見つめる相手……古手さんも同様に、目を真ん丸にして驚いている。古手さんと赤坂さんの絆。やはり、先程の赤坂さんの話には、深い意味がありそうですね。

「間に合ったよ。梨花ちゃん。君を助けにきた。ぜひとも手伝わせてほしい」

赤坂さんは、声もなく泣き出した古手さんの前にしゃがみ、頭を撫でる。こらえきれなくなった古手さんが、赤坂さんに飛び付くと、そのまま声を上げて泣きはじめる。

もしかしたら、古手さんにとって、──そして赤坂さんにとっても、この5年間というものは特別な意味を持っていたのかもしれませんねぇ。

腹が决まりました。先ほどの赤坂さんの話が事実だとすれば、古手さんの近くに『オヤシロさまの祟り』の影が落ちている。────場合によっては、園崎家に落ちているものよりも濃厚な影が。

最後の一年はこっちに賭けてみますか。

(続く)