ひぐらしのなく頃に 神落し編
2007/08/17_213207沙都子1
わたくしは、みなさんと一緒にわたくしの家に来ました。園崎さんの組の方々が、家のまわりの立木を倒して片付けています。家のまわりに広い空き地ができています。
わたくしは園崎さんのお母さんに案内されて、家の玄関まで歩いていきます。
園崎さんのお母さんが言います。
「さあ、中に入って必要なものを持って来な。必要だったら何人か使って構わないからね」
わたくしは頷きました。ポケットから玄関のカギを取り出すと、わたくしは玄関を開きました。詩音さんが手渡してくれた懐中電灯を手に、わたくしは家の中に入りました。
ほこりくさいにおいが鼻をつきます。そこら中がほこりだらけです。わたくしはクツ箱からスリッパを取り出すと、クツを脱いではきかえました。後ろの詩音さん、魅音さんも同じようにスリッパにはきかえます。
わたくしが一歩あるくたびに、ほこりがキラキラとまいあがるのがわかります。わたくしは足元に気を付けながら二階に上がる階段をめざします。一階にはなにもありません。なにもありません。
わたくしは階段を上がります。階段を上がるのはたいへんです。はあ、はあ、と息が切れてきます。わたくしは途中で休みます。
詩音さんがわたくしに声をかけます。
「大丈夫……?」
とてもやさしい声です。わたくしはこたえました。
「大丈夫でございますのよ。────さあ、いきましょう」
わたくしは階段を上がりました。階段を上がった短い廊下の先にある部屋。にーにーの部屋です。わたくしは、息を切らしながらも、何とかにーにーの部屋の前にたどりつきます。わたくしはにーにーの部屋の扉に手を掛けますが、とても重くてなかなか動きません。
魅音さんがわたくしに声をかけます。
「手伝おうか?」
とても心配しているようです。わたくしはこたえます。
「いいえ、──大丈夫でございますのよ。わたくしに開けさせてくださいませ」
わたくしはさらにいっそう力をこめて扉を引きます。あるところから、急に扉が動きはじめました。部屋の扉が開きます。詩音さんと魅音さんの持っている懐中電灯の灯りが、部屋の中に吸いこまれていきます。
にーにーの部屋────にーにーの戻ってくる場所。────にーにーが戻ってくる……はず……だった場所。
でも、わたくしは、……………この場所を守ることが……できませ……………ん……でした。
わたくしは……この場所を………………捨てなくては……なりません。
わたくしは……………………
「大丈夫。悟史くんは必ず沙都子のところに戻ってきます。私が保証します」
詩音さんがわたくしを後ろから抱きかかえます。わたくしは──少しだけ温まったような気がしました。
「そうですわね。───あまり時間もかけられないのですわ」
わたくしは、部屋の中に入ります。
「この家から持ち出すのはこの部屋のものだけなのですわ」
にーにーの部屋は──とても広く感じました。
小さめのタンスが一つ。
小さい本棚が一つ。
野球の道具を入れた箱が一つ。
それで、おしまいでした。
押し入れの中も、ふとんが一組あるだけで、他には何も入っていませんでした。
詩音さんが、とてもさみしそうな顔をしています。
「そうすると、本棚と野球道具、タンスかね。布団はどうしよう?」
魅音さんが部屋の中を懐中電灯で照らしながらたずねます。
「ふとんも一通りお願いいたしますのですわ」
「人足が要りそうですね。呼んできましょう」
詩音さんが窓を開けます。すうっ、と強い風が吹き込みます。その風は、いつまでも部屋の中をまわっています。部屋につもったホコリも、風といっしょに動き始めました。
「あ、葛西、葛西ぃ~~~~。4人ぐらい連れて二階に上がってきてくださ~~~い。灯りも忘れずに~~。土足厳禁ですからね~~~」
遠くから、大きな声が響いてきます。
魅音さんが、いつのまにか部屋の中でヒザを抱えて座っています。いつのまにか暗い顔をしています。
「────どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。ごめんね沙都子。下手を打っちゃったみたいだ……」
わたくしは首をふります。
「とんでもないのでございますのよ。ほんとうに、ありがたいことなのでございますのよ。わたくしは昔は『北条』ではありませんし、また『北条』じゃなくなるだけなのでございますわ。圭一さんの言う通り、わたくしは『沙都子』なのでございますのよ。それに──」
わたくしは部屋の中を見わたします。この部屋からはにーにーの匂いがしませんでした。
「それに、この部屋も────にーにーの居場所ではなかったのですわ」
わたくしは窓に腰かけます。
部屋の外が順番に明るくなっていきます。部屋の前の廊下が明るくなり、そして部屋の灯りがパッとつきました。
冴えざえとした灯りに、この部屋がさらされます。
タンスと、本棚と、野球道具。押し入れのふとん。とても、とても小さく見えました。
「詩音さん、お待たせしました。──運ぶのはこれだけで?」
詩音さんが懐中電灯を振りまわしながら答えます。
「はい、そうです。丁寧に運んでください。落としたりしたら承知しませんから」
葛西さんは首をすくめると、仲間の方に指示します。
あっというまにタンスと本棚と野球道具とふとんが運ばれます。部屋の中が空っぽになります。昔、良く隠れていたにーにーの部屋。もう、その部屋はありません。昔、良くにーにーと一緒にいた部屋。今は見なれない部屋です。
視線を上げると、魅音さんと詩音さんが手まねきしています。
わたくしは窓から立ちあがります。
「さ、行こう。沙都子」
「あともう一仕事、お願いします。沙都子」
わたくしはうなずきます。
詩音さんと魅音さんの後をついていくかたちで部屋を出ました。
「にーにー。……今度は、わたくしがにーにーのいる場所を作るのですわ」
わたくしは、にーにーのいた部屋の灯りを消し、扉を閉じました。