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ひぐらしのなく頃に 神落し編

2009/12/29_030023




目次


『野村』

何時の間にか眠っていた。軽く頭を振ると、椅子に座り直す。

さて、どうしたものか。現在の状況をもう一度頭の中で整理する。

当初の計画は明らかに破綻している。T、Iの失踪、警察の介入。大幅な計画の遅れ……本来ならば計画を破棄し撤退すべき状況だ。

だが、ここに来て局面は新たな展開を迎えた。女王感染者が重体のまま行方不明になるという異常事態。そして、破綻した計画を一気に押し進める数少ない機会。

女王感染者の異常と失踪。これは緊急マニュアルの想定する非常事態と解釈できる。シナリオを大きく修正する必要があるが、大目標となる緊急マニュアル発動に繋げることも可能だろう。

しかし、私は迷う。

決行する時の問題は三つ。

一つは、時間。女王感染者の死が計画よりも24時間以上早い。まだ敵対派閥の閣僚の一部が東京に残っている。この状態で実行を前倒しすれば介入されるリスクが大きい。そしてそのまま失敗すれば格好の攻撃材料となるだろう。それを避けるためには、山狗を使って女王感染者の生存情報を流し、死亡時刻が計画時刻になるように操作する必要がある。

一つは、体制。緊急マニュアル発動の前倒しを行うにしろ女王感染者の死亡時刻を操作するにしろ、現在の計画を大幅に修正する必要がある。しかし、今までの計画の大幅な狂いから山狗含め関係者の多くが少なからず混乱した状況にある。この状況で計画の変更を行うには多大なリスクを負わなくてはならない。また、Tの失踪も危険な状態を引き起こす可能性がある。もし敵対派閥がこの情報を入手したら、用心のため閣僚の外遊や静養を取り消して東京に残るだろう。閣僚の動向を観察するための人員を配置する必要がある。

一つは、対象。雛見沢には村人だけではなく興宮警察の署員も存在する。署員が雛見沢に詰めている状態では雛見沢地区を外部から遮断するのは難しい。そして、村人によるRの捜索が続いている間は署員が雛見沢から撤収することはないだろう。“終末作戦”を実行するためには迅速かつ確実に署員を排除する必要がある。

しかし、撤退は撤退でリスクがある。

作戦失敗による信用の低下。これだけ規模の大きい作戦を完全に失敗してしまうのは大きな損失だ。準備にそれなりの費用を投資している。ある程度の責任追求は避けられないだろう。撤退するならばもっと早い段階で手を打つ必要があったが、迂闊にも判断を遅らせてしまった。致命傷にはならないだろうが、非常に危ういところにいる。だが、しかし────

電話の呼び鈴が鳴る。

時計を確認する。小此木からの報告の時間だ。思考が中断されたことに少し苛立ちながら受話器を取る。

「はい」

「鳳2です。鳳1から報告があります」

「判ったわ。繋げて」

しばらくの沈黙。

「鳳1です。状況を報告します」

自衛官らしくない物言いで小此木が状況報告をする。

雛見沢の状況は前回報告から進展なし。未だにR、I、T及び雛は発見できず。雛見沢には興宮警察が入り込み、村中総出で山狩りが行われている。

深く溜息をつく。

Rの死亡が確認されていない。まだ可能性は残っているが……どうする?

既に打てる手は一通り実行している。情報整理、作戦修正案の検討、関係者への打診────また、奥の手として番犬を演習名目で雛見沢近くに移動させている。決行するにしろ撤退するにしろ、番犬を活用するのが確実だ。また、もしも本当に一斉急性発症の兆候が見られたとしても、迅速に雛見沢に展開し、封鎖することができるだろう────まあ、一斉急性発症などという与太話が現実になることは百万に一つも無いと思うが。

「山狗の消耗はどんな感じなのかしら」

「あまり芳しくありません。以前より人員が足りていないのは報告通りです」

もう一つ深く溜息をつく。今から東京の人員を雛見沢に送っても間に合わないだろう。どうやらツキも無いようだ。人事を尽して幸運が得られないというのならば…………

仕方がない。

私はもう一つの消極案──雛見沢の情報収集のみ継続し、タイミング良く予定時間通りにRの死亡が確認できた場合のみ緊急マニュアルを発動する──で進めることにした。十中八九“終末作戦”は廃棄になるだろうが、致命的な失敗よりも取り返しの効く失敗の方がまだましだ。閣僚の動向確認を行う必要があるが、幸い東京には山狗が多数来ている。再配置はそれほど難しく無いだろう。それならば────

小此木が口を挟む。

「確認──よろしいでしょうか」

私は考えを遮られたことに対してさらに苛立ちながらも小此木を促す。「何。どうしたの?」

「番犬は……、いかがいたしますか?」

その声に何か不気味なものを感じる。

「別にどうしようもしないわ。待機のままよ」

なぜ?

なぜ小此木はそんなことを気にするのだろうか?

「…………撤収ではないのですね。」

撤収? 一体なんのことか?

「小此木、どういう────」

「残念です」

背筋にぞくりとしたものが走る。小此木の声に染み付いた微かな違和感。

それが狂気であることにようやっと気付いた。

「────とても──────残念です」

受話器を置き、振り返ろ…………うとしたが、そこまでだった。

身体に走る衝撃。重たいものが叩き付けられる音。目の前に現れる複数の軍靴。

床の冷たい感触。ぬける力。

そして、とまる、

(続く)





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